研究テーマ
(1)界面活性剤溶液系で生成する液晶相、マイクロエマルション相の研究
マイクロエマルション相としてバイコンティニュアスマイクロエマルション相やスポンジ相、液晶相としてミセラーキュービック相やバイコンティニュアスキュービック相などの特異な相を主な対象としています。これらの物理化学的な特性、例えば超低界面張力や超高弾性率などを活かした化粧品、洗浄剤への応用を目指しています。 特に天然由来の界面活性剤を用いた相平衡を検討しています。天然由来の界面活性剤はSDG’sの考え方から重要ですが、分子分布がブロードな混合物としての扱い難さがあります。したがって、相平衡を正確に理解して研究することが必要で興味深い研究対象です。
(2)高内相比乳化やマルチプル乳化などの特殊な乳化系の研究
高内相比乳化物は内相の体積比が0.74(粒子径が均一な剛体球の最大充填率)を超える乳化物です。例えれば粒子同士が強く押し合っている状態とも言えます。高内相比乳化物の中でも特に内相比の高い乳化物においては、内相を形成する粒子が球ではなく多面体を形成しています。このような高内相比乳化物の合一に対する安定性を保つためには、多面体の一つの面と近接する多面体の面が押し合った際に変形が起こりにくい界面膜が必要です。これは界面活性剤の2分子膜が平板上に広がったラメラ液晶にほかなりません。言い換えれば、O/W型の高内相比乳化物を生成させるためには、通常のO/W乳化物に適する親水性の界面活性剤を使用する必要はありません。ある意味で盲点ともいえるこの事実を利用して、中間HLB(親水―親油バランス)的な性質を有するポリエーテル変性シリコーンを用いて高内相比乳化を検討しています。 同じような考え方、つまり乳化系に必要な界面曲率の条件を深く考慮する、という手法でマルチプルエマルション(多層乳化物)も非常に効率的に生成させることができます。
(3)香料を油として含む系の相平衡
香料成分は分子量が小さく、極性の高いものが多いため、化粧品に使用する一般的な油とは相平衡が大きく異なります。適切な界面活性剤を用いて相平衡の特徴を理解することを目的に研究を開始しました。
(4)オリジナル化粧品の開発
学生にとても人気のある卒業研究テーマです。ナリス化粧品様に製造を委託して大学オリジナルの化粧品を作っています。ターゲットを女子大生としたニーズ調査から始まり、中味特徴、パッケージの決定、能書表現を法規に沿って考案します。最後に完成品の有用性研究を行います。つまり化粧品会社での開発の流れを一通り経験できます。この研究は客員教授の谷先生が中心になってご指導いただいています。第一弾としてべたつかないのにうるおうハンドクリームを、第二弾としてトーンアップ効果もある日焼け止めUVジェル、第三弾としてしっかり潤うのにべたつかない化粧水を開発しました。
学会活動
2023年~2024年
執筆
- 渡辺啓, バイコンティニュアスマイクロエマルション泡沫によるメイク落とし, オレオサイエンス, 第24巻第7 号, 299-304(2024)
- 渡辺啓, 研究室紹介 武庫川女子大学薬学部 化粧品製剤科学研究室, C & I Commun Vol.49 No.2, 1-2 (2024)
- 渡辺啓, 新基礎講座 可溶化とマイクロエマルション, オレオサイエンス 第23巻第11 号, 584-589(2023)
- 渡辺啓, ポリエーテル変性シリコーンのベシクル/ディスク構造転移を利用したO/W 乳化, オレオサイエンス 第23巻第1 号, 17-27(2023)
- Kei Watanabe, Hidehito Munakata, Kento Ueno, Haruhiko Inoue, Makoto Uyama, Yohei Takahashi, Koji Tsuchiya, Kenichi Sakai, Hideki Sakai, Novel O/W Emulsions by Utilizing a Vesicle/Disc Transformation of Polyether Modified Silicone, J. Oleo Sci. 72, (7) 693-708 (2023)
学会発表
- 中野惠, 藤井もえ, 浅野ちひろ, 渡辺啓, 植物由来アミノ酸系界面活性剤によるスポンジ相の生成 ー相平衡と洗浄力の関係ー, 日本化学会関西コロイド界面科学セミナー(京都), ポスターNo. 17 (2024)
- 高城茉依, 平野由真, 浅野ちひろ, 渡辺啓, 極性油を用いたO/W型高内相比乳化とマルチプル乳化の関係, 日本化学会関西コロイド界面科学セミナー(京都), ポスターNo. 8 (2024)
- 沼田世羅, 岩隈由江, 平尾哲二, 渡辺啓, 黒田幸弘, 化粧水の表面張力の温度依存性に関する基礎的検討【しっとりタイプやさっぱりタイプの違いの物性評価】, 第74回日本薬学会関西支部大会(神戸), ポスター (2023)
- Yang Zhang, Mika Yoshimura Fujii, Makoto Uyama, Kei Watanabe, Novel approach to enhance effect of skincare formulas based on interfacial property of vesicles that imitating cell membrane, 33rd Congress of IFSCC (Barcelona) (2024)
- 張陽, 藤井美佳, 宇山允人, 渡辺啓, 細胞膜構造を模したベシクルの界面特性に基づきスキンケア効果を高める新しい処方開発のアプローチ, 第1回日本化粧品技術者会学術大会 第33回国際化粧品技術者連盟学術大会(IFSCC)国内報告会(大宮), ポスター(2023)
招待講演
- 渡辺 啓,井上 東彦,酒井 秀樹, ポリエーテル変性シリコーンのベシクル/ディスク構造転移を利用した新規O/W乳化, 第62回日本油化学会年会 第25回油脂優秀論文賞受講講演会 油脂技術優秀論文の部, 2024年9月5日 (米沢)(2024)
- 渡辺啓, 化粧とはなんだろう?化粧品会社での開発事例, 立命館大学 薬学部 香粧品学, 2024年7月5日(草津)(2024)
- Kei Watanabe, Novel Fascinating Feature of foam-Foam type hybrid bicontinuousmicroemulsion makeup remover -, Soft Interface SeminarLI, April 15 (Himeji), 2024
- 渡辺啓, ベシクル/ディスク構造転移を利用した最新乳化技術, 日本化学会第104春季年会シンポジウム「粒子・分子の凝集・分散・集合を用いた機能性システムと利用」, 2024年3月21日(船橋)(2024)
- 渡辺啓, ベシクル/ディスク構造転移を利用した最新乳化技術, 第3回武庫川コスメティックサイエンスフォーラム ー美を極める処方技術の最前線ー, 2024年3月8日(西宮)(2024)
- Kei Watanabe, Preparation of Sponge Phase with Nonionic Surfactants and its Application to Makeup Remover, 9th Asian Conference on Colloid and Interface Science 2023, Dec. 15 2023 (Hongkong) (2024)
- 渡辺啓, 渡邊由樹, 張陽, 増田収希, 松本千景, 島孝明, 齋藤直輝, 水ベースでメイクを落とすことは可能なのか? 〜新規スポンジ構造会合体による水系⾼洗浄⼒メイク落とし〜, 第1回日本化粧品技術者会学術大会 第24回日本化粧品技術者会 最優秀論文賞受賞講演会, 2023年12月7日(大宮)(2024)
- 渡辺啓, 相平衡図を用いた化粧品の価値づくり, 日本油化学会 界面科学実践講座2023, 2023年11月8日(2023)
- 渡辺啓, 渡邊由樹, 張陽, 工業用ポリエチレンオキサイド型非イオン性界面活性剤/共界面活性剤/水系におけるスポンジ相形成の重要な因子とその界面における特異な性質, 第61回日本油化学会年会 第24回油脂優秀論文賞受講講演会 油脂技術優秀論文の部, 2023年9月8日(高知)(2023)
- 渡辺啓, 化粧品の機能・感性価値を高めるO/W乳化の進化, Mixing Vision 2023(プライミクス社主催), 2023年11月16日(東京)(2023)
- 渡辺啓, マイクロエマルションとその応用, 第24回 日本油化学会フレッシュマンセミナー ―界面と界面活性剤―, 2023年10月16日 (Web開催)(2023)
- Kei Watanabe, Novel Fascinating Feature of foam -Foam type hybrid bicontinuous microemulsion makeup remover -, IFSCC Free Webinar, July 12th 2023 (Webinar) (2023)